品種改良と種の「はなし」(後編)

人類は品種改良を古来からしてきています。そこでは経験則に基づき、生産者が「より良いもの」を求めて試行錯誤しつつ、選抜に選抜を重ね、長い時間をかけて行われていました。
在来種を栽培し、その栽培結果から「求めているもの」を選抜の上「種」を採取し、再び栽培→選抜→「種」の採取→栽培の繰り返しを行っていたのです。もちろん選抜するためには収穫までの栽培が必要となるため、何年にも渡る時間が必要とされるものでした。
その後メンデルの法則が1865年に発表され、当初は見向きもされていませんでしたが、1900年にその価値が再発見されました。当時の日本は明治時代に入り様々な外来種の野菜を輸入し、日本人の口に合うように、また、日本での栽培条件に見合うように品種改良が盛んな頃でもありました。それ以降、性質・形状を司っている遺伝子に着目した様々な研究が、特に親世代の選抜方法そして親世代の組み合わせについても進められています。
今回は、遺伝子に着目した品種改良の方法について見ていきたいと思います。

DNAマーカー育種

個々の性質・形状は遺伝子情報を持っているDNAの中にある塩基の配列によって決まっています。そこで、その塩基の配列の違い目を目印(マーカー)として利用することで求めている性質・形状を持つ個体を選抜する方法です。
遺伝子情報を用いる方法であるため、品種改良の栽培時に最後まで栽培せずとも、その途中の段階でマーカーを基に「求めている」性質・形状を持つ個体を選抜することが可能となり時間と手間を省くことができるようになりました。また、遺伝子情報という科学的データによる選抜を行うため、品種改良者個々の経験・勘に依存する割合も減らすことが可能となりました。
この手法は世界中でも採用されており、特に「トマト」は研究開発が進んでいる野菜となります。

ゲノミックセレクション

個々の性質・形状の違いについて、いくつもの遺伝子情報が関与して決定されていることがあります。このような場合においては、DNAマーカー育種では対象とするマーカーの数が多すぎるために対応することが非常に困難となってしまいます。
その点について2001年にMeuwissenがゲノミックセレクションを提案しました。
Meuwissenは、大量のDNAマーカー情報(遺伝子多型情報)と、その形質などのデータを収集し、その関係性を説明する数式モデルを推定することで、実際に栽培する以前にPC上で予測、シムレーションすることの可能性を説いています。
昨今ではコンピュータ技術・統計学の発展とともに、数式モデルとして回帰モデルやAIを駆使した高度なモデル推定技術が試行され、様々な研究結果が発表されています。
また、ゲノミックセレクションではDNAマーカー情報とその形質データがあればシムレーションができるために、現在の野菜だけでなく、過去に改良された品種の野菜、そしてそれらを交配した結果の予測に基づく将来のF1品種の形質予想も可能となります。
よりきめ細やかな形状・性質を求める品種改良時に対応できるとともに、親世代の掛け合わせの選択や早期の個体選抜での時間の効率化とともに栽培場所の省スペース化が可能となります。

遺伝子組み換え(GMO:Genetic Modification)

従来の品種改良もDNAマーカー育種も、そしてゲノミックセレクションも交配させるものは同じ種(しゅ)、あるいは近縁の種(しゅ)を対象に自然交配を行っています。よって、それぞれの種(しゅ)が保有していない性質は開発できません。そこで、種(しゅ)の制限を外して既知の性質を司る他種(しゅ)の遺伝子を一部人為的に組み込んだり、人為的に遺伝子に操作を加えて一部の遺伝子の働きを促進あるいは抑制したりする方法です。
主には、農薬・病虫害に対する抵抗力を増すためや、食品成分に影響を与える目的で行われています。

通常の自然界ではほとんど起こりえない掛け合わせであり、かつ、遺伝子レベルで直接的な操作を人為的に実施するために、以下の点を懸念する声があがっています。
・遺伝子のメカニズムが完全に解明されているとは言えない状況であり、組み換え操作自体が正しいと言い切れるのか検証ができないこと。
・通常の自然界では存在しないものを作り出すことによる、生態系・人体への影響が明らかではないこと。
・遺伝子組み換え作物と既存作物が交配することで、更なる新しい品種が増殖されてしまい(遺伝子汚染)、影響が範囲が日々拡がりつつあること。

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