美味しさを感じる脳、味を捉える味覚

美味しいって?

私たちは食材を摂取する際に、「美味しい」、「不味い」などの感想を持ちます。この時、私たちは味覚・嗅覚・聴覚・視覚・触覚の五感をフル回転させています。
実際に食べ物を口にしたときに舌で感じる味覚。食べる前に私たちの食欲をそそる食べ物の匂い、食べ物を口にしている時に私たちの鼻腔に届く匂いを感じる嗅覚。料理をしている、はたまた、食べ物を嚙んでいる時に聞こえる音を聞き分ける聴覚。食べ物の色合い・盛り付け具合などを見分ける視覚。歯ごたえなどの食感や温度を感じる触覚。
脳は五感からやってくるそれらの情報のほかに、その他様々な情報を加味して最終的に「美味しい」、「不味い」などの判断をしているのです。
そのため、鼻をつまんでコーヒーを飲むといつもの味がしないというように、五感のうち一つからでも十分ではない情報がやってくると、脳は正しい判断ができなくなります。また、人によって「美味しい」食べ物、「不味い」食べ物が異なるように、あるいは状況によって普段は「美味しい」はずの食べ物が「不味く」感じられたりと、非常に主観的な感想なのです。
一方、舌は鼻をつまんでいてもいなくてもコーヒーの味を脳に伝えていますので、脳で感じる味と舌が捉えた味には違いがあります。舌はどのような味を捉えてどのように脳に情報を送っているのでしょうか?
また、人それぞれの好き嫌いはどのように分かれていくのでしょうか?

舌で感じる味の基本とそのシグナル

食べ物の味の基本は甘味・酸味・塩味・苦味、そしてうま味の5つに分類されます。紀元前からうま味を除く4つの味は認識されていましたが、5つ目のうま味は1908年に日本の科学者である池田菊苗博士がグルタミン酸であることを解明したものであり、英語でも”Umami”として通用しています。
辛味は舌で感じているわけではなく、痛覚が刺激され”熱い”と感じて認識しているので味の基本には分類されません。ですので英語では”hot taste”と表現されます。

私たちは各種の味を食べ物のシグナルとして受け取り、脳に情報を連携しているようにも見えます。
・甘味
ショ糖、ブドウ糖など、エネルギー源となる成分を感じさせます。
・塩味
ミネラルのように体液のバランスを調整するために必要と思われる成分を感じさせます。
・うま味
アミノ酸の味であって、私たちの体を作るうえでも必要なタンパク質があることを感じさせます。
・酸味
食べ物の腐敗を暗示していることを感じさせます。
・苦味
毒物が含まれている可能性を感じさせます。

味を感じる味蕾(みらい)

味を感じ取るのは私たちの舌のザラザラしたところにある味蕾(みらい)と呼ばれるところになります。下図の上の部分が「味孔」と呼ばれ食物と接する部分であり、下の部分が「味覚神経」として情報の伝達経路となっています。
味蕾(みらい)は大きく4つに分類され、Ⅰ型が塩味を、Ⅱ型が甘味・うま味・苦味を、Ⅲ型が酸味を感じ取るところと考えられており、味が味蕾を刺激することにより、神経伝達物質を介して味覚神経へと情報伝達されています。
Ⅱ型ではATP(アデノシン三リン酸)が、Ⅲ型ではセロトニンが神経伝達物質として作用していることが知られています。Ⅰ型については、ATPの放出機構が報告されているものの、十分には解明されていません。

味蕾(みらい)は細胞分裂が盛んにおきており亜鉛酵素をふんだんに必要としていますので、亜鉛不足が起きると味覚感覚が正しく機能せずに味覚障害を引き起こしかねません。また、亜鉛不足は、脳内での神経伝達にも関わっており、特に学習・記憶に関係する海馬に多く存在するために学習障害を引き起こす可能性があります。

個人で異なる美味しいって?

個々人の嗜好性(好き嫌い)を左右する要因には様々なことが考えられますが、後天的な要因の中では食の経験による学習が重要なものではないかと考えられています。すなわち、食べ物を摂った時の「快い」あるいは「不快」という感情が繰り返され、脳の神経回路に何らかの変化を及ぼし、その結果、嗜好性の形成もしくは変化に影響を与えているのではないかと。その場合の「快い」、「不快」は舌だけではなく、他の五感からも伝達される情報、状況・体調などの様々な情報が脳に集まって判断されるものとなります。
特に「快い」、「美味しい」食事をした際には、脳内でエンドルフィンやセロトニンの量が増加すると言われています。エンドルフィンは私たちが「ランナーズハイ」状態でいるときに作用している伝達物質です。セロトニンは私たちが幸せを感じる際に作用している伝達物質であると同時に、腸の蠕動(ぜんどう)運動にも作用し免疫力の向上にも貢献します。また、「快い」、「美味しい」と感じる際にはドーパミンの量も増加すると言われており、こちらは「もっと食べたい」という欲求を引き起こします。
一方、「不快」、「不味い」と感じるときに作用している伝達物質についてはまだ十分にはわかっていません。
いくつかの研究事例によれば、食の経験による学習が嗜好性に影響を与えることは世代を問わず起きうることであるとされています。偏食は健康にもよくありませんので、安定した気分・状況での食事をすることで「美味しい」と思う食べ物を増やしていきたいものです。

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