食材の価格:青果物の価格決定メカニズム(後編)

前回記事:食材の価格:青果物の価格決定メカニズム(中編)

 

私たち消費者だって「価値がある」ものだということがわかれば、それに見合ったお金を出して買い物をしますよね。そこで我々は野菜の「価値」は「栄養価」ではないかと考え、実際の野菜の価格と栄養価の関係を調べてみました。野菜49品目について過去5年間のデータに基づいて「価格」と「栄養価」の関係性があるかどうか調べたところ、関係性が認められませんでした。
それでは、野菜の価値とは果たして何なのでしょうか?農家さんが「希望小売価格」を設定できるようになったとして、どこに価値の源泉を見出せばよいのでしょうか?今後、さまざまな観点から野菜の「価値」を探っていくこととしていきます。

 

 

では、生産者はどのようにして希望価格を算出すべきでしょうか?

原価、販管費、流通コスト等は管理する事により計算する事が出来ます。では、付加価値は、どのようにして決めればよいのでしょうか?
付加価値とは、「消費者が何に対してWilling to Pay」なのかによってきまります。例えば、糖度の高い青果物は付加価値が高く、高く売れる傾向があります。ただ、近年、糖度度の高い青果物が増え、差別化が出来なくなりつつあるのではないでしょうか?また、昔のトマトやトウモロコシが懐かしい、という声も良く聞きます。では、糖度の他に何が付加価値の源泉になりえるのでしょうか?もともと私たちは日々の活動を行う為に食事をしています。すなわち、食事を通して栄養素をとっています。
それならば、「野菜が持つ栄養素が付加価値の源泉になるべきではないのか」と思い、食品の3大機能の第1機能に挙げられる「栄養素の摂取」に従い、各種栄養素との相関を調査しました。しかしながら、食材が持つ栄養価と価格との間には有意な相関を見つけることが出来ませんでした。

以下が調査結果の内容です。

青果物の栄養成分の含有量が価格に及ぼす影響

<背景>
近年、消費者の健康志向が高まりに伴い、特定の栄養成分の含有量に特徴のある新品種が育成・栽培され、流通しはじめており、野菜や果物の生鮮食品に含まれる栄養成分に対する関心が高まっている。一般的に商品の価格は、その商品への期待によって需要が高まることで高くなる傾向にあるが、青果物においては、栄養成分の含有量による期待によって価格が変動するかどうかは明らかになっていない。そこで、青果物の栄養成分の含有量が価格にどのように影響しているかを、青果物の市場価格推移データと食材の成分データを用いて分析を行った。

<データ>
青果物の市場価格推移データは、農林水産省が公表している青果物卸売市場調査(日別調査)(https://www.seisen.maff.go.jp/seisen/bs04b040md001/BS04B040UC020SC998-Evt001.do)を利用した。Webページでは2010年以降のデータを提供しているが、2011年以前のデータは2012年以降のデータと比較してデータ量が少ない傾向にあったため除外し、2012年1月~2016年10月のデータを使用した。また、食材の成分データは、文部科学省が公表している日本食品標準成分表2015年版(七訂)(http://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/1365297.htm)を利用した。測定されていない成分および最小記載量に達していない成分については0で補間を行った。
分析に使用した食材は市場価格推移データと成分データに対して名寄せ処理を行い、共通して記載されている74品目(野菜48品目、果物26品目)とした。成分データは部位別、調理方法別に成分含有量が記載されているが、主要の可食部かつ生の成分含有量(例えばだいこんの場合は『(だいこん類) だいこん 根 皮つき 生』のレコード)を使用した。

<方法>
食材の価格は供給量や季節性等の成分含有量とは関係しない様々な要因によって日々変動しているため、成分含有量が価格に及ぼす影響を調べる際にはそれらの要因を除外した価格を用いる必要がある。そこで、市場価格推移データについて、南石の市場価格推定モデル[1]を解釈しやすいように一部変更した以下のモデル式に当てはめることで、価格の要因分解を行った。

log(Pt) = a0 + a1log(Qt) + ΣdiDi + ΣciMi + ΣbiYi

ここでPtはt期の食材価格、Qtは当日の出荷数量、Yiは年次ダミー、Miは月次ダミー、Diは曜日ダミーであり、a0 、a1 、bi 、ci 、diは推定パラメータである。このとき、切片項 a0 は供給量や季節性等の栄養成分の含有量と関係しない要因が除外された要因と考えられる。このモデルによって価格の要因分解を行った後、食材単位で推定された切片項と各成分の含有量との相関分析を行うことで成分が価格に及ぼす影響を調べた。

<結果および考察>
市場価格推定モデルを推定食材毎に行ったこところ、モデルの精度は表1の通りとなった。旬の影響を月次ダミーの項で表すモデルとなっており、旬の影響が同月内で変動する食材については同月内の平均値として推定されるためモデルの決定係数が低くなる傾向にあった。本分析においては、価格に関係しない要因を分解することが目的であり、日次の当てはまりを評価する必要はないため、決定係数による食材の選定を行わなかった。但し、当日の供給量の係数が正値となっている食材については、需給関係を正常に表せておらず、モデル式もしくはデータに問題があると考えられるため除外処理をおこなった。
食材49品目について、市場価格推定モデルの切片項と各成分の含有量の相関分析を行った結果を表2に示す。無相関検定を行った結果、p<0.05で有意に価格と成分含有量に相関があったものはβ.トコフェロールのみとなった。しかし、β.トコフェロールが含まれる食材は『やまのいも』と『びわ』の2品目のみであり、有意に相関があるという結果は外れ値の影響によるものと考えられるため、含有量が価格に影響を及ぼすとは言えない。
以上の結果から食品の成分含有量が食材の価格におよぼす影響はないと考えられる。


表1.市場価格推定モデルの精度と推定されたパラメータ
灰色のセルは推定されたモデルのパラメータa1が正値の食材であり、モデルが正常に推定されてないと考えられるため、相関分析の際には除外処理を行った。


表2. 食材の価格と成分含有量の相関分析の結果

参考文献
[1] 南石晃明(2000)「日別野菜価格変動の長期的変化と要因分析」『農業経営研究』第 38 巻 1号 pp.1-10
[2] 佐倉朗夫(1990)「野菜卸売市場における旬別価格の時系列変動要因分析 一番黄浜市中央卸売市場本場を中心として」『神奈川県農業総合研究所研究報告』第132号 pp.62-68
[3] 鈴木充夫(2004)「東京都中央卸売市場における野菜卸売価格変動の要因分析 ―キャベツと キュウリを対象として―」『農村研究』第 98 号 pp.34-44

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